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近くで乱暴にドアを開ける音がして、すぐに吉田は浅い眠りから目を覚ました。
今度は、壁を金属バットで叩く音が狭い八畳間に響く。鼓膜がビリビリする。
「起きろタコ!」
堂本のドスの利いた怒鳴り声に、吉田の体は条件反射で震えた。どう考えてもカタギの声音ではない。何度聞いても慣れない。外見もチンピラそのものだった。半袖のシャツから覗く両の腕には、龍の刺青が彫られている。
吉田は布団から体を起こした。心臓がドクドクと音を立てていた。全身の寝汗も凄まじい。 濡れた前髪を掻き上げ、隣の布団に寝ている男たちを見やる。右側には五十近くの男――菅井が、自分と同じように慌てて跳び起きている。彼は吉田より二回りも年上なのに、落ち着きがなく、常に怯えている。
左隣に寝ている吉田より二つ年上の男――日下が、素早く布団から這い出て、堂本に「おはようございます」と言った。吉田も彼に倣って朝の挨拶をした。
起きた三人はさっさと寝間着から長袖長ズボンの作業服に着替え始めたが、部屋の端に敷かれた布団で大の字になってまだ寝ている男がいた。彼の枕元にはコップ酒が三本転がっている。
「ジジイ、起きねえのかあ?」
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