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 吉田が飯場の手配師に会ったのは、一か月前の七月十日。蒸し暑い昼下がりの新宿だった。その日吉田は、一週間根城にしていたネットカフェの前で途方に暮れていた。パンパンに膨らんだデイバッグの中身は、着替え数着と五百円ちょっとしか入っていない財布、契約を解除して久しいスマホだけだった。  今夜の宿代が足りなくて、朝からずっと新宿駅の周辺をうろうろしていた。道端に小銭が落ちてないか目を皿のようにしてチェックした。自販機を見かけては、釣銭返却口に指を滑り込ませた。だが収穫はゼロだった。  すれ違うスーツ姿のサラリーマンや綺麗目な服を着たOL、制服とスポーツバッグがセットの高校生、今時な恰好をした大学生らしき若者――彼らを目で追うたび、妬ましい気分になるのだった。当たり前のように仕事を持っている人間が。帰る場所がある人間が。     
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