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「なぁ、お前なんであの工場で働いているんだ?」
すっかり明るくなった帰りの車内、俺は前々から疑問に思っていたことをナギに聞いた。
「賭けていたんですよ、自分のなかで。次来る荷物の場所とか、番号とかね」
「なるほど、お前にとってはどこだって賭博の場所になるってわけだ」
「そういうことです。あっ、車止めてください」
「なんだよ」
「あの女」
俺が車を路肩に止めると、ナギがバス停に立っている女を指さした。
「あの女を僕が落とせるかどうか、賭けませんか?」
「おいおい、ずいぶんいきなりだな」
「負け越しは嫌なんですよ。どうです?」
「いいだろう。……今から出勤って様子だ。落とせないほうに十」
ナギは黙ってコイントスをした。開いた手のひらのなかで、コインは裏面を向けていた。
「落とせるほうに、三十。じゃあ、先に帰っていてください」
車のドアを開けるナギの背中に向けて、俺は大声をあげた。
「一度に賭けるのは二十までだ、俺らの給料を考えろ!」
ナギは振り返らずに片手をあげて、足早に女のもとへ向かった。二言三言、ナギと女が話している。会話の内容まではここでは聞こえないが、女はナギと一緒に駅とは逆方向へ歩き出した。
俺は舌打ちをひとつして、自分たちのアパートへ車を走らせた。
結局俺はこのあと、ナギに十五万をくれてやることになる。証拠写真まで突きつけられては、反論の余地もありはしなかった。
その晩、俺はいつも以上に激しくナギを抱いた。ギャンブルに負けた悔しさを、征服欲で満たそうとしたのか。それとも……あの女に対して嫉妬をしていたのか。
――そんなわけはない。
ナギの上にのしかかりながら、俺は自分でも笑ってしまうようなバカな妄想を頭の隅っこに押しやった。
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