此れは、よく在る出来事。

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「あ!日直終わったんすねー」  アイツの声が聞こえる迄、自身が如何していたかさえ定かでない。ただ痛む脳はアイツの言葉だけを幾度も幾度も繰り返す。好きな人がいる。好きな人がいる。好きな人が。  熱と毒に焼かれた喉が震え、空っぽになった肺を絞る。「ああ、帰ろうぜ」なんて単純な言葉を発するのにさえ、労力を要した。其の甲斐あってか、アイツには何ら違和感を抱かせなかった様だが。   嗚呼こうして並んで帰るのも最後かと、重い足を無理矢理に引き摺りつつオレより上にあるアイツの顔を見やる。毎日毎日長年見慣れた光景ながら、一度だって幸福を感じぬ日など無かったというに。  今日だけはやけに重苦しい。空と萎んだ肺は強く縛られ、張り裂けた心臓は踏み潰され。隣の家に消えていくアイツに別れ際、果たして普段通りの言葉を返せたかすら、痛み朦朧とする脳では定かでなかった。
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