Ep① 淡く染まる心

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(閉ざさなきゃ――心を――) 「もし、殺したくなったら、そのときは真っ先に俺を殺してくれ」  反射的に目を開けて、視線をラムドへと投げる。 「だから、ちゃんと感じるんだ。それを拒否しちゃいけない」  ラムドの目元が緩み、花の蕾が綻んだかのような柔らかな笑みを浮かべていた。 「お兄ちゃ――」 「ラムドって呼んでくれよな。最初の頃は、そう呼んでただろ?」  口元をへの字に曲げている。  ファリファンは、首を軽く傾げて見せた。 「何、その困ったような顔」  不満そうな声だ。 「困ってません。わたし、心がお出かけ中なので」  プッとラムドが吹き出す。 「捜しに行かないとな」 「今は、帰ることを目標にすべきだわ」  ラムドがファリファンの手を掴む。 「俺は夜目が利くから安心していいぞ」 「迷子になってたのは、どちらさまでしたっけ?」 「ファリファンがいるから、もう大丈夫だ」  先を行くその背中に引っ張られるようにしてついていく。  ラムドの腰ベルトには、一粒だけ青香石(せいこうせき)をはめ込んだ腕輪がぶら下がっていた。  見るからに女物だ。 「それ――そんな腕輪、持ってた?」 「あぁ、これか」  ラムドが確認するかのように指先でそれの縁になぞる。 「気が遠くなるほど大昔から持ってたよ」  風に揺れてざわざわと葉音を立てる木々の合間に渡る道を抜けた途端、闇色の天空に白く光輝く丸くて途方もなく大きい物体が現れた。  ――月――だった。
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