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疑い、戦い、努力して生きてきた彼らにとって、ただ与えられるだけという状況は逆にストレス。
しかし町の人々は彼らを不憫に思い、少しでも子供らしく過ごせる安全な暮らしを提供したいと尽力する。それに稀とはいえ外地からやって来る人間にライ達の姿を見られるのは非常に危険、出来る限り外出は控えてもらいたかった。
エリーゼの手料理を温め直しテーブルに置いていくリアと、テーブルの隅で突っ伏しているライ。この頃のリアは料理に不慣れで、町人達が持ってきてくれる料理を口にする毎日。いい匂いに反応し上げたライの顔はぶすくれている。
「そんな顔をしては、エリーゼさんに申し訳ないぞ。」
「皆の料理は確かに美味いよ。でもさぁ!これでいいわけぇ!?」
「っ、急に大声を出すな。」
「何もしなくても手に入る快適な環境!美味い飯!温かい風呂にベッド!最高の生活っ!でもそれでいいのかぁ!?いやッ!いいわけないッ!!」
何かのスイッチが入ったライは、向けられているリアの冷ややかな視線に気づいていない。
「雑用係だろうが何でもいい!恩返ししようぜ!?」
「そうは言っても皆働かせてくれないじゃないか。これは好意でしてくれてる事なんだ、無下には出来ないよ。」
まだ子供なのだから今はこの環境に甘んじるしかない。妥協し受け入れているリアとは反対に、ライはテーブルを叩いて立ち上がる。
「雇ってもらえないなら、オレ達で店開いちゃおうぜ!」
「き、起業するという事か!?」
「オレらは世間知らず!何の能力も無いッ!そこを逆手に取って、何でもやって金を稼ぐ!色んな事を覚えられて一石二鳥!何でも屋を開くんだッ!!!」
拳を高々と突き上げ宣言するライ。
金儲けではなく恩返しというならばリアは大いに賛成し、2人は開業するに当たり3つだけ決まり事を定めた。
一つ、依頼料さえ貰えれば何でもやる
一つ、依頼人には感謝を込め、去り際の礼を忘れるな
一つ、どんなに金を積まれても、人の道を逸れる仕事はするな
これが何でも屋『Jack of all trades 』誕生の瞬間
次の日、居ても立ってもいられなかった2人は早朝にも拘らず変装してエリーゼの家を訪ねる。自立し、恩返ししたい熱意を主にライのうるさい声が伝え、エリーゼは妥協した様にどこかへ電話を掛ける。
「今からレストランへ行くよ。」
「飯っ!!!」
「違う、働きに行くのさ。」
エリーゼは2人の手を引きレストランへ向かう。
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