サプライズ・シーフ

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 彼はサプライズで指輪を用意していて、それが私の気分を害した。  指輪がケースから姿を見せてまず一秒、これは綺麗な指輪である、という客観的判断が私の中で下ろされた。しかし私の主観的感情は僅かに波打つこともなく、冷たいコンクリートのように重く強張り静かだった。彼は私に、それを左手の薬指に嵌めて欲しかったのだろうけど、いざ試してみると、左手の薬指どころか左右の十本どの指にも合わなかった。小指には大きすぎて、他の指には小さすぎた。私は無性に苛々してきて、どうしてこのサイズを買ったの?憶測?私の指のサイズ聞いてきたことも測ったこともないよね?てかなんでこの指輪?と彼に言うと、買うのに付き合ってくれた女友達の指にはそのサイズでぴったりだった、と彼は言った。彼の言う女友達とは恐らく、彼と中学の頃から仲が良いというスギタさんのことだ。私はまず、サイズもデザインも私に一つの相談もなく決定したということに腹が立ったし、一度スギタさんの指に嵌められた指輪を私に与えようとすることにも不快になったし、私が喜ぶに違いないと思い込んでいた彼の浅はかさも気に入らなかった。
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