サプライズ・シーフ

　そもそも、彼は社会人だけど私はまだ学生で、年齢条件はクリアしているとしても結婚なんてまだまだ考えられなくて、なのにそれを意識させるようなプレゼントなんて馬鹿げていると思ったし、それに私の専攻は金工で、私は高校までは美術と言えば油絵しか知らなくて絵画の中にも絵画の他にも色々な分野があるんだって知ったのは今通っている大学を見つけてからで、更に工芸っていう概念を知ったのは入学して半年くらい経ってから受けた講義のお陰で、更に金工っていう分野を知ったのはその講義の後半でなのだけど、だから四回生になった今でも私は知識も技術もまだまだ全然足りないしデザインセンスもないし、作品は先生には貶されてばかりで褒めていただけることなんて滅多にないのだけど、でもよく使う素材の特性とか融点とか何と何をどんな比率で混ぜたらどんな合金になるかとか大まかなことは一通り頭に入れてるし、研究室にある機械も何かトラブルが起こるとやっぱり先生に相談させていただかなきゃ解決出来ないことが多いけど一通り使えるし、絞りとか溶接とか蝋付けとか鏨での彫りとか打出しとか象嵌とか鋳造とかの基礎的な実習は受講済みだし、だから精密鋳造でそれこそ指輪だとかのアクセサリーをつくった経験もあって、彼もそれを知っているのに、どこかの誰かが万人向けにつくってしかも一度スギタさんの指に嵌まったその指輪を私に渡すことは、私に対する侮辱ではないかと思った。