陰陽と清濁と

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おきく、十二歳。 「そなたにこの剣の謂れを話す時分が来たの」 「よろしくお願い致します、おばあ様」 当主の間で対面している二人は、その間にある剣に視線を向けた。銘も無き剣だが、鍛えられたのは1000年以上昔の大陸。現代では中華人民共和国という名の国の剣ーー。 「我が国は、弥生時代の後、古墳時代だの飛鳥時代だのと呼ばれる頃合い。かの国は南北朝時代末期から隋へと移行する頃、無名の鍛冶職人が死を待つばかりだったらしい。戦には剣や弓矢など山程必要であったから、無名の鍛冶職人も山程居たであろう。その鍛冶職人は、混乱の世であるからか、身体はあまり丈夫では無く。故に若くても明日をも知れぬ身だったそうだ」 おきくは、当主であるおきくからの話を身動ぎもせずに、聞き入る。袴姿のおきくと着物以外は着た事は無いと思われるくらい、訪問着を常に着ている当主・おきく。 その二人の姿は、まるで時が止まっているかのよう。これからその頃のかの国へ行ってくる、と非科学的な発言をしても頷いてしまうような、一種、清廉な空気が場に流れていた。 「その鍛冶職人には、二世を誓い合った女子もおらず、父母も既に無ければ兄弟も無かった。家族というものには縁遠い男だったのだろう」 ゆっくりとした調子は、けれど飽きさせる事の無い声で話を続ける。
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