陰陽と清濁と

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師に認められて修行の旅に出た男は、各地から姉弟子へ手紙を出した。自分の思いなど微塵も知らせず、ただの弟弟子として、近況を報せるだけの手紙。そのような日々が何年も続いた。男はその間に、とある土地でとある剣と巡り合う。 その剣は、南北朝時代末期から隋への移行真っ只中の大陸であるが故に、男のような庶民でも目に留める事が出来た傑物と言っても過言では無かった。大陸は争乱の絶えない時代。小国の小競り合いの最中だからなのかは不明だが、庶民でも目に留める事が出来る状況だった。その剣は、名剣と謳われるに相応しい剣だった。とはいえ、剣である。使えば折れる事もある。 素晴らしい剣ではあったが、男が再び目にした時には、刃も零れた酷い有り様の剣と成り果てていた。しかし、男はその剣が輝き溢れていた状態を知っていた。それを目にしていたがために、剣としての使命を果たし終え、潰えるだけの剣が忍びなかった。とはいえ、男ではその剣を研ぐ事すら出来ない。ましてや蘇らせるなど、とてもーー。 だが、あの美しさを残さないのは、刀工としての名折れのようにも思えた。そこで、男は自らの目に、意識に、焼き付いた剣を、復活させることにした。同じ物など出来るはずは無い。それでもやらない選択など無かった。 その日から、男は何度も何度も剣を鍛え直して、ようやく納得いくものが出来た。出来上がったと同時に、男は倒れ込んだ。
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