第一話

1/28
前へ
/79ページ
次へ

第一話

 第一話  国立東京都北区第三高等学校。  僕はそこに通っていた。  学科は普通科。  この地区の子どもは親がいないので学校は全寮制。  部活への参加は任意。  放課後は夕方まで自由時間。  学校でうるさく言われるのはテストの成績くらいだ。  つまり僕らは戦時体制下にしてはのんびり過ごしていたと言えるだろう。  僕たちもバカではない。  それが大人になる前の、兵士になる前のモラトリアムの期間だと理解していた。  そんなある日、あれは確か2年生のとき、テスト期間前、5月のことだったはずだ。 「前から言っていたように、来週は他の学校と合同で林間学校だ」  30代後半の胸板の厚い男、担任が僕たちに言った。  強そうだが従軍経験はない。  40歳で退役になった軍人は上流階級専用区画で余生を過ごす。  もう働かなくてもいいのだ。 「林間学校の用意があるから、今日から授業は休止。お前らは自室で待機してよし、家に戻るなら外出許可を書くこと。以上、解散」  いいかげんに思うかもしれないが、昨今では人手不足が深刻化している。  今朝のチョコレートの減産もそうだが、どの産業も人手が足りない。     
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加