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「いきなりーーいきなりすぎる!見合いって黙ってたのか!?・・・ひと目惚れって、お前、それっ、一方的でひどすぎんだろっ!?」
幼なじみとしての付き合いは30年近くの年月になる。その内で、恋人になってからの期間は、まだたったの3ヶ月だ。
「・・・ひでぇよぉーー」
「ごめん。だからお前も・・・この機会に目を覚まして誰かとまっとうにーー」
「ふざけんなっ!」
思わず、当麻のネクタイをねじり上げる。
「お前がそんなこと・・・言うなよっ!!」
幼なじみで中年のおっさんとーー同性である相手と、簡単に恋人関係になんかなれるもんじゃない。
悩んで悩んで、それでも諦めきれなくて、お互いに手を取り合ったはずだった。
それなのにお前だけ違ったのかよっ!?
睨みつけた当麻の顔はーー暗く重い表情だった。それでも見慣れた目の光は、何かを堅く決心した時のものだ。
「ーー分かったよ!恋人終わってやる・・・当然、幼なじみの腐れ縁もばっさりだ。当麻、お前、それでいいんだよな!?俺達これでもう二度と会わなくても」
否定してくれればいい。
せめてーー幼なじみではいようって、言ってくれたら・・・って、やっぱりそれも無理だ。
俺はこいつを好きすぎる。
「・・・それでいいーーすまん、晃穂」
声を詰まらせ、深く頷いた当麻の方が辛そうで、腹が立つ。
そうだよ、こいつはいい加減な気持ちで行動出来ない、不器用な奴なんだ。
相手の気持ちを察して、懐深く対応できるーーどこまでも優しい男。
そんな当麻がひと目惚れしたっていうんだから、俺よりもその見合い相手を本当に好きになってしまったんだろう。
どこのどんな女だか知らないが、俺だって負けないくらい、こいつが好きなのに。
俺はぎゅっと拳を握りしめ、思いきって背を向ける。
「じゃあな・・・」
幸せになれよとか、見栄をはっても絶対言えない。
それでも誰よりも、当麻が好きだから。
俺は、突然の終わりをーーその時、受け入れたんだ。
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