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…ザアザアとした、雨音が聞こえる。
雨が降っているのだろうか──?
朝にしては薄暗い室内で、目を開けた…。
少しだけ空気が湿っていて、暑い。
何気なく横に伸ばした手が何にも触れずに布団の上に落ちた。
焦って起き上がり、辺りを見渡しても彼はいない。
布団には温もりだけが残っていた──。
追いかけようと急いで着替えていると、机の上に何かが置いてあった。
彼からの手紙とお金のようだった。
取り敢えず内容を見ずにそれを引っ掴み鞄に入れ、走って部屋を出る。
エントランスを走って出て行くさして若くもない男は、大層滑稽だろう。
まだ、朝日が昇る前の薄暗い道を駅に向かい走る。
…きっと、彼は駅に向かうだろう。
雨がこんなに土砂降りなのに気付いたのは、走り出してからだった。
久し振りにこんなに走ったな、なんてくだらないことを考えた。
どうしても失いたくないような、こんな気持ちになったのは初めてだった。
彼に、好きだと言った言葉は聞こえていたのだろうか──?
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