雨音で君を見失った朝

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…あれから3年の月日が過ぎた。 3年間で変わった事と言えば、仕事上での立場と周りの目だ。 俺自身は、何も変われてやしない。 毎週木曜日に此処に来る俺は、もうすっかり常連だった。 次の週のマスターは何を言わずとも察したように、ただ苦笑していた。 あの時の手紙はもう、皺くちゃになっている。 ただ一つ、彼を感じられるものだ。 彼が置いて行ったお金も封筒に入れて、引き出しにしまってある。 …お金で彼が抱かれた様で嫌だった。 もう、渡すことも出来ないとわかってはいるけど──。 こんな未練タラタラな俺を見て、君は何て言うのだろう。 …また会えることへの少しの希望を求めて、俺は此処に通い続けるだろう。 頭の中で、あの日の雨音がずっと響いている──。
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