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そして、売り主である内藤【ないとう】氏との顔合わせの日ーー。
当充彦は顔を合わせて早々、何故この物件がこんなに格安なのかを尋ねた。
当然だ。
何かしらの理由もなく、こんな好条件過ぎるマイホームが、こんなにも格安な値段で手に入る筈がないからである。
充彦はとんでもない曰くが、彼の口から飛び出すのを覚悟し、思わず身構えた。
しかし、どんな曰く付きの理由が内藤から飛び出るかと思いきや、彼の口から出たのは拍子抜けする程に、ありがちで全うな理由だったのである。
その理由とはーー。
「ああ、それはですね、この家はある実験の為に試験的に造られたモデルハウスだからです。
つまり貴方はモニターという訳ですよ、松橋【まつはし】さん。」
「えっ......モニター?
あの商品のお試しとかで良くある、あのモニター??」
「えぇ、そのモニターですよ、松橋さん。」
充彦は、そう笑顔で答える内藤の顔を覗き込みながら、驚愕の表情を浮かべる。
そんな充彦を見据えながら内藤は、初老の男性には似つかわしくない愛嬌のある笑顔で、充彦へと言う。
「やっぱり、結婚な安価だと色々と気になりますよね?」
「え....えぇ。
こう言ってはなんですが正直、殺人事件でもあった曰く付き物件なんじゃないかって疑ってましたよ?」
「まぁ、無理もありませんね、この値段ですから。」
内藤は苦笑しつつ、充彦へと答える。
「やっぱり、そうですよね?
ところで家のモニターって、どういったもの何ですか?」
「そうですね....一言で言えばストレスを緩和する家の実験モニターです。」
「ストレス緩和ですか?」
「えぇ、やはり現代社会においてはストレスは、切っても切り離せない問題ですからね。
それで私達の会社では、少しでも社会貢献するべく、ストレス緩和住宅の開発に取り組んできたという訳なのですよ。」
「成る程、確かにストレスは難問ですよね..。
でも、モニタリングが必要な現段階なら何で、家を売り出したのですか?
モニターのアルバイトでも雇えば、経過観察は事足りると思いますが?」
モニターというだけでは、腑に落ちなかった充彦は内藤へと再度、質問する。
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