1st シングル

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「そんじゃ、そろそろ帰ってやることがあるし。お前も頃合いを見計らって帰った方が良いぞ」 振り向きざま、談笑なのかアドバイスなのかを続けている美形グループに瀬戸先輩は「じゃ」と短く言って背を向けた。焦ったように白川先輩が「せ、瀬戸くん!? また明日ね!」と声を上げて、それに応じるように手をひらひらさせながら去って行く。 ――なんか、かっけえ。 ゼミが終わってから軽く一時間くらい。そろそろ閑散としてきたし、俺も帰ることにしようかな――と、先輩たちに頭を下げて正面玄関へ。 自然と早足になりながら、ちょっとヤバいかもしれないと思ったのは、先ほどの瀬戸先輩の言葉が頭を過っていたから。 言うならば、視線。 さっきまで柔和で人の好さ全開で頷いていたはずの羽柴が、その瞬間――頭を下げた俺に先輩三人が労いの言葉を掛けた一瞬――だけ、人生で向けられた中でぶっちぎりの嫌悪を込めた視線で貫いてきたから。 「こっわ」 ボソッと呟いて、微かに滲んでいた手汗をズボンに擦り付ける。イケメンの睨みは怖いかった。それ以上の恐怖ももちろん伴ったわけだけど。
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