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◇
この角を曲がれば、研究室のある廊下に出る。つまり、研究室が開いていなかった場合、すでに羽柴はそこにいることになる。
大きく息を吸い、吐き出す。深呼吸をしてから一歩足を踏み出すと、見目麗しい大人気のアイドルが何を考えているか分からない顔で佇んでいた。
「お、おまたせ」
「うん、少しだけ待ったけど、来てくれてよかった」
作り物めいた顔が俺を見る。その視線は特に何も語っていないのに、俺の心は確かにざわついた。
「ちょっと、話しにくい内容で相談があるんだ。そうだな、トイレにでも一緒に行こうか」
「う、うん」
軽率な判断かもしれないけど、拒否を受け入れる様子が見られない以上ついていくしかない。センサーによって勝手に電気がつくトイレ内、さすがに個室に二人で入ったりはせず大きな鏡に俺たちは写し出されている。
「協力してほしいことがある」
開口一番、羽柴はそういった。洗面台に手をついて下を向いて。その様子から、コイツは俺を見ることはないんだと悟った気がした。
「あの三人、白川、朝倉、米沢との仲を取り持ってほしい」
「へ……?」
それ、どういうことだ?――疑問は喉の奥で押し込めた。どうせ聞いても答えない、というか勝手に話てくれるだろう。
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