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「――チッ」
突き飛ばすように手を離した瞬間、俺はせき込みながら蹲った。苦しい、痛い、恐い。色んな、しかも最悪の感情が混ぜこぜになって頭の中をグルグル回っている。
「よく考えてくれよ? 今後の自分の身の安全の為に」
下を向いて動けないでいる俺の目前に、紙切れが一枚落ちた。アルファベットと数字の羅列。
「それが俺の連絡先。今日中にキミから連絡してくれ。あと、分かってると思うけど、他言無用だから」
連絡先と今の話の全てはキミだけが抱えてくれよ――と囁くように言う。まるで蛇みたいに俺の身体を締め付けているような錯覚を覚えた。
「最後に、俺は我慢強いタイプじゃないんだ。できるだけ早く、俺の希望通りの結果が出ないと何かが起こってしまうかもしれないね」
「この、クソ野郎……」
「いい結果を、待っている」
颯爽と去っていき、トイレには俺だけが残された。十分にも満たない時間だったはずなのに、最悪の気分だ。
喉の痛みと焼け付くような怒りが、沸々とよく分からないエネルギーを生み出しているのが自分でも分かるのに、それをどうしたらいいのか知らない。泣きそうな自分を何とかこらえて、俺はトイレから出た。
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