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「葵!」
思わず口を手で覆っているところに同期の美和が駆け寄って来た。
「天澤課長と結婚するの!?」
「そんなまさか!」
「だよね。葵に限ってそれはないか。...ちょっと、部長!何あっさり葵のこと売ってくれちゃってるんですか!」
美和が私の代わりに部長に噛みついてくれたものの、部長はこちらを見ようとはせず、両手で包んでいる湯飲みの中身を見つめたまま
「すまん、真田…俺には女房と可愛い娘と住宅ローンが…」
と苦しそうに呟いた。
部長が課長に逆らえないのには理由がある。
この会社の社員の間では、秘書課課長天澤唯人が社長の愛人であるという噂は公然の秘密なのだ。
あくまでも「噂」だけれど。
だけどその噂によって掃除のおばちゃんでさえ天澤課長を知っており、天澤課長に逆らうということは、社長に逆らうことを意味する。
と社員は思っている。
「真田さん?」
「はいっ!只今っ!!」
廊下から課長の声が飛んできて、私は慌てて課長の後を追った。
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