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「社長」
私と社長の気まずい空気を破ったのは、落ち着き払った課長の声。
「ご予約は14時からです。車は手配してありますので私が付き添います」
「…あなたの付き添いは必要ないわ。彼の都合がついたから」
すぐにビジネスモードに切り替えた社長の口調。
それに合わせてなのか、会話の内容のせいなのか、課長の口調も堅くなったように感じる。
社長に付き添って産婦人科に行く「彼」と聞けば社長のご主人思い浮かばない。
もしかして、社長のご主人に二人の関係がバレて、近々天澤課長クビになっちゃうから、私はその補欠要員とかいう話なんだろうか。
昼ドラさながらのドロドロした関係(の妄想)に、寒気が止まらない。
「そうですか。では私は真田さんの指導に当たります」
「よろしく。真田さん、突然異動だなんてごめんなさいね」
突然二人に話を振られた私は飛び上がりそうになった。
「い、いえ!」
「分からないことがあったら何でも天澤課長に聞いてね」
「はいっ」
私が上擦った声で返事をすると、社長は寄るところがあるからと言って、課長が手配した車で予定より早く出掛けて行った。
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