第1章  再会

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「お昼の邪魔をしてすみません。じゃあ」 「あ、あの」  軽く会釈して立ち去ろうとする彼を思わず呼び止めてしまい、亮真は何を言いたかったのか自分で戸惑っていた。 「お名前、聞いてもいいですか?」  は? 俺、何言ってんだ。  見ず知らずの、ただここで会っただけの人なのに名前聞くとかおかしいだろ。 「あ、べつに怪しいものじゃないです。俺は宮原亮真といいます」  焦って自己紹介をすると、彼はゆっくり首を振った。 「怪しいなんて思ってませんよ。職員証、かけてますし」  首から下げたIDカードには写真入りで部署名と氏名が記載されている。  確かにそうだが、だからと言って見ず知らずの相手に名前を尋ねるのは唐突すぎたかもしれないと、亮真が後悔しかけたとき、ふっと彼が表情を緩めた。 「春日です。春日蓮見(かすがはすみ)」  亮真は、かすがはすみ、とその音を口のなかで噛みしめるように繰り返す。 「じゃあ…」  かすかにうなずいて、彼はゆっくり遠ざかって行った。  その肩にかかったワンショルダーバッグを見て、はっとした。紺色のバッグに赤いラインが入っていて、そのラインに沿ってアルファベットが小さく並んでいる。あるオンラインゲームの名前だ。  あの時の人だ。
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