第1章  再会

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 追いかけて声を掛けようかと一瞬思ったが、もうタイミングを逃したことは明らかで、それに時間もなかった。亮真は遠ざかっていくほっそりした背中を見送った。  そのうちまた、会えるかもしれないし。4月に入ってから、何度か公園を歩いているのを見かけていたから、きっと会えるだろう。  亮真はそう諦めて、弁当のふたを開いた。なんだかんだでけっこう時間を食ってしまったので、急いで食べてしまわないと。午後の会議に遅れるわけにはいかない。  弁当箱には玉子焼きに唐揚げ、きんぴらごぼうなどがぎっしり詰まっている。  ……あの人だったんだ。  髪を切っていたからあの時とは印象がまるで違っていて、パッと見にはわからなかった。相手のほうも亮真に、気がついていなかったようだ。  そりゃそうか。成り行きでほんの少し会話して別れただけの相手を、そんなにしっかり覚えているわけがない。それにあの時はすごく体調が悪かったようだし、きっと亮真の顔なんかろくに見ていなかっただろう。  でも少なくとも散歩に出歩けるくらい元気になったのだ。彼のことは何も知らないが、そう思うとほっとする。  急いで弁当をかきこみながら、亮真は一月ほど前の出来事を思い出していた。
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