第1章  再会

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 今年は3月中旬になってもまだ雪がけっこう残っていた。  亮真は昼休みに図書館へ寄ろうと市役所を出た。文庫本を2冊手に持って、上着も着ずにカーディガンでそのまま向かう。ほんの数メートルの距離だからコートを取りに行くのが面倒だったのだ。  持ってきた文庫本を返して、別の文庫本を借りた。  2年前に自動貸出し機を導入してから、本を借りる人が増えたと司書が言っていた。カウンターに並ぶ煩わしさが減ったからだろうか。それとも対面で借りる本を司書に見られないことがよかったんだろうか。  亮真にはそんな感覚がなかったのだが、書棚の向こうからそんな会話が聞こえてきたのだ。姿は見えないが、けっこう年齢高めのおばさんの声だった。 「やっぱさ、この年でこんな恋愛小説読むのかとか思われるのヤダよねぇ」 「ああ、ハーレクインねー。私もけっこう好きだけど借りづらいよね」  そういうものか? 司書にしても仕事だからイチイチ誰が何を借りたとか見ていない気もするが、こういう本借りた人いるんだーくらいの会話をすることはあるだろうし、それが噂になったりすることもあるのかもしれない。  人は意外と人のことを見ていたりするんだろうか。  そうだよな、でなきゃ主婦の井戸端会議があんなに長いわけないもんな。祖母や母親たちの噂話の幅広さと来たら、どこでそんな与太話を仕入れてきたんだと思うくらいだ。  まあそれほど大した内容でもない、日常のくだらない話ではあるのだけれど。  それでも噂話は怖いよな…。
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