第1章  再会

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 悪気のない噂話でも傷つくことはあるのだろうし、周囲は大したことじゃないと思っていても本人には立ち直れないということだってあるのだ。そんな深い意味で言ったわけじゃない何気ない話に立ち直れないほど追いつめられることも起こり得る。それを亮真は知っていた。  さっきのハーレクインおばさんも自分の個人的な趣味を他人からどうこう言われたくないのだろう。  そんなことを考えながら図書館を出て、飲み物でも買おうとホールの自販機に行ったら、怪しげな風体の人物がじっと自販機前に立っていた。  いや、黒のダウンコートにグレーのパンツだから別に怪しくはないのだが、髪は寝起きのままのようなぼさぼさで前髪が目の下あたりまで伸びているから胡散臭く見えてしまうのだ。後ろは肩に届いて適当に結わえていた。  紺色のワンショルダーバックを斜め掛けにしている。  コートや靴やバッグは特にくたびれているわけでも汚れているわけでもなく、というよりむしろほとんど新品に近いようなきれいさで、そのちぐはぐさがますます怪しげな感じだった。  何か買うものを選んでいるのかと、すこし離れたところから待っていたが、彼は一向に商品を購入しない。  買う気はなくて見てるだけか?  冬の昼間のホールに人影はまばらだった。  いぶかしく思いながらすこし近づいた。  声をかけて、先に買わせてもらおうかと思ったのだ。亮真が後ろから声をかけようとしたとき、ようやく小銭入れを取り出して硬貨を入れたから、やっぱり買うのかとそこで立ち止まった。
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