プロローグ

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プロローグ

 宮原亮真(みやはらりょうま)は今日、人生初の男同士のカップルを見た。  生(なま)のホモカップルだ。  いや、今はこういう言い方はよくないんだっけ。  生まれて初めてゲイカップルを間近で見た。  いや、見たなんてのも失礼な言い方になるんだったよな。  会った……、会えたというべきだろうか。  二人は今日の午後、パートナーシップ登録のために、亮真の職場である市役所の住民戸籍課を訪れたのだ。  数年前にこの町がパートナー条例を制定して以来、初めての申請者だったので、先週の予約が入って以降、住民戸籍課ではちょっと、いやかなり話題になっていた。  そして約束の今日の午後二時、二人はやって来た。  彼らは亮真の想像とは全然、違っていた。  一人は一八〇センチを超える立派な体格の強面の男で、意思の強そうなきりっとした目元と口元が印象的だった。立っているだけで威圧感が漂う雰囲気で、夜道で会ったらきっと大急ぎで避けて通るだろう。  落ち着いた低い声を聞いて、彼が電話を掛けてきた細野史明(ほそのふみあき)氏だとわかった。  その横でやわらかな笑顔を浮かべた男性が立っていた。清潔そうなこざっぱりした印象で、髪はあかるい茶色に染めていて全体的に優しげな雰囲気だ。こちらが秋本敦(あきもとあつし)氏だろう。  二人ともノーネクタイだけれどシンプルなシャツにパンツ姿で、どこから見てもきちんとした男性で、女性っぽくはなく、会話する様子をみてもオネエでもオカマでもなかった。  ゲイと聞いて、テレビで見るようなゲイバーの化粧の濃いママやオネエ風にしゃべるダンサーや巨体の女装タレントを無意識に思い浮かべていたので、二人があまりに普通のどこにでもいそうな男性だったことに亮真は驚いたのだ。  なんだ、ゲイって普通の男性で、男の恋人同士ってだけなんだな……。  女装だとかオカマだとか、自分の想像力の貧困さを思い知らされたようで、二人を前にした亮真はなんとなく申し訳ない気分になった。  
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