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ところが今日は先客がいた。
ベンチの背もたれに背中を預けて、日差しを浴びて目を閉じている。紺のパーカーに綿パンツ姿だから役所の職員ではない。散歩に来てここに入り込んで休憩しているのかもしれない。
ワンショルダーバッグを斜め掛けしていて、足の上に両手でペットボトルを持っている。肩先まで伸びた明るめの茶色の髪が風に揺れている。
性別はどっちだろう。上を向いて目を閉じているのでよくわからない。男性にしては華奢で女性にしては背が高い。一人で来ているのか連れはいないようだ。
表の公園で遊ぶ子供たちの声もここにはかすかに届くだけで、世界が切り替わったような静かな空気に亮真はそこに入っていくのをためらった。
端のほうに座ってもいいよな?
この人も真ん中にどんと座ってるわけじゃないし。
ベンチは大人なら四人は座れるくらいの大きさだから、一人分あけたくらいで座っても平気だろう。でも眠っている人の横に勝手に座るのはどうだろう……と迷っていると、人の気配を感じたのかその人が身を起こして目を開けた。
数メートルの距離で立っている亮真を見て、すこし目を見開く。
その顔を見て、あ、と思った。
何度か公園を散歩しているのを窓越しに見かけたことがあった。平日の昼間から公園をふらふらしている若い男性がめずらしかったので見覚えていたのだ。
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