極楽鳥花

半年程前、突然、東京にいる娘と連絡が取れなくなった。娘の自宅マンションの電話にかけてもつながらず、携帯電話は解約されているようだった。私はパニックになった。
　進学してからこの田舎街を離れて上京した娘は週に一度は、電話をかけてくれたし、メールはもっと頻繁にあった。
　なにか、良くないことが起きている。母親の直感だった。私は新幹線に飛び乗って、娘が住んでいるマンションに向かった。娘の部屋は外から見るとカーテンが外されていて、明らかに人気がなく、管理会社に電話をしたら、娘は引っ越したと言われた。何か事件に巻き込まれているとしか思えなかった。焦燥に駆られて、私はそのまま、娘が住んでいる地域の警察署に飛び込んで、捜索願を出そうと相談したところ、区役所にも問い合わせてみるといいとアドバイスをされ、区役所で事情を説明し、手続きをした。区役所の職員は、難しそうな顔をして、奥歯に物が挟まったような言い方で、娘は望んで行方不明になっている、と訳の分からない事を言った。