潜入開始

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「聞きましたか、魔女がまた子供を攫ったそうです…」 「東の町でしたな。しかも三人もいなくなったとか…」 「本当に許されざる卑劣な奴等ですよ。何の抵抗もできない子供達を母親から引き離し攫っていくなんて。」 身なりのいい紳士2人の会話だ。 レオは鼻で笑いそうになった。何が魔女がまた子供を、だ。 レオや部下らも含め魔女の(つるぎ)の構成員はみな王国から魔女の手によって攫われ、郷で育てられた者たちだ。それは事実。 けれどその子供らは皆貧しさで口減らしされた捨て子であるとか、愛されず暴力の中にあるなど、不幸の運命にある子供達。攫っても誰にも気づかれないような悲しい子供達だ。 魔女はその不幸や死相を嗅ぎ分ける力を持っているのだ。不幸にあり死の間際に佇む子供らを引き上げ、郷で屈強に育て上げる。そうして魔女の(つるぎ)の一員となっていく。彼らの中のほとんどが魔女に救われたと感じているくらいだ。 もちろん、だからと言って子供を攫う行為が正当化されるわけでは無い。 しかし少なくとも町で大事に育てられている子供を三人も、魔女がわざわざ攫ったはずがない。 つまり魔女の仕業ではなく、国民による仕業。 犯罪を何でもかんでも魔女のせいにする風潮を利用して、人攫いの悪者が子供を誘拐しているのだろう。そんなことも知らず魔女のせいだ、卑劣だ、と騒ぐのは馬鹿げている。そんなことをする前に現実を見て早く犯人を取り締まれ、魔女のせいにするな、とどつき回したくなるが、今は彼は可憐なご令嬢。 大人しく聞き耳をたてるに留めておいた。 無知な男たちの会話は続く。
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