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「どうぞ」
レオがすっと手を引くと、青年は慌てた様子ですみませんと口ごもりあたふたとグラスを手に取った。スマートにレディファーストなどと言えないところや正装に着られている感じなど、垢抜けない青年だ。
青年はグラスを手に取るとおずおずとレオを見つめ、はっと顔を赤らめる。レオは怪訝な気持ちで相手を見つめた。
「あ、あの!お、おき、お綺麗…
な、ドレスですね」
「…どうもありがとうございます。」
「その、あの…」
「お名前をお伺いしても?」
すぐに顔を赤らめなどして、女慣れしていなさすぎだろうと突っ込みたくなるほどの挙動不審っぷり。…さすがにかわいそうになった。話を切り出せずに目を白黒させているので助け舟を出そうと先んじて名前を聞いてやると、ホッとしたようにケビンと名乗った。地方の町長の息子だとか。
そんな末端の者さえ招かれているとは本当に大きな祭典だ、としみじみ実感していると、相手もレオに名前を尋ねてきた。
レオはこの何日かでリンメイらに叩き込まれた前設定と、同じく女の部下や魔女らに叩き込まれた「女らしい仕草」をフル稼働して、返答に臨んだ。
「レオナと申します。メレオン王国の方々とは懇意にさせていただいておりますわ」
「ということは別の国からいらしたのですか…?」
「ええ。ナルタという国から参りました」
「ああ、お隣の…!」
全く怪しんでいない様子だが、当たり前だ。色々と計算尽くした上でのこのフェイクの設定。
メレオン王国の隣にある小国ナルタはメレオンと貿易の面で懇意にしている国だ。ナルタ国の人間がこの式典に招かれていたとしても不思議はなく、寧ろ他国の人間だからこの式典に知り合いが少ないという理由もつくので都合が良い。
さらに、実はナルタの現国王は数年前難病を魔女によって救われている。その恩を深く感じているらしく、ナルタの国王はここ最近魔女の郷との親交が深く、魔女に協力的である。ナルタの国王に頼めばレオナという架空の貴族の娘の名前を一つ捏造することくらい喜んでやってくれるだろう。つまり今後齟齬が生じても帳尻を合わせられるのだ。
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