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「ナ、ナルタはまだ行ったことが無いんですがとても良い国だと聞いています-…!」
「それは光栄です。では失礼します」
にこりと、それでいて有無を言わさぬ笑顔で口下手な青年に別れを告げ別のグラスを手に機敏に移動する。潜入中になんの有用な情報も持たなそうな小物を相手にする暇はない。何か背後から引き止めようとする声が聞こえたが無視を決め込み足を進めた。
…それにしても、とレオは豪奢な絹のカーテンの隙間からのぞく窓に映る自身の姿を眺める。薄紫色の繊細な刺繍のあしらったドレスも髪飾りもとにかく慣れないが、自分はしっかりとご令嬢らしく振舞えているだろうか。
そもそもレオは元は男。武人の中の武人であって歩き方ひとつ取ってもキビキビとしており、歩幅も大きい。女の姿になってもなおその歩き方をして違和感がとんでもないことになったのでリンメイに怒られて直され、さらにら声の出し方や表情まで直されたほどだ。
もっと女らしくせよと魔女や部下らに囲まれダメ出しされまくった記憶が脳裏に蘇る。
「ちょっとレオ、いいえ、あなたはもうレオナなの!もっと可愛く笑えないの?」
「無理です」
「ほらその喋り方も!高くて愛らしい声を手に入れたんだから、もっとふわっと喋るの!」
「ふわっと喋るってなんですか…」
「ああもう!ちょっと誰か来て!」
魔女の劔の中でも女子力が高いと評判の女の部下、ユミまでもが参戦してダメ出しは無限に続いた。
「長!ダメですよその隙のなさ!」
「は?」
「その何事にも対応できる構えや鋭い目つき、人の気配を感じる度にさりげなく防御できるようにしてるその身のこなし!完全に達人です。めちゃくちゃかわいい女の子が達人級の身のこなしはさすがに色々ばれますって」
「仕方ないだろ。それが務めだ」
「ああっその容姿でその口調…!私的にはギャップ萌えで堪りませんけど今回はだめです!」
「ユミ…お前の言ってることがよくわからないぞ」
女性らしい歩き方や身のこなしは、武道の技を覚えるときのようにとにかく型として体に叩き込んだ。口調は、ここは魔女の劔の長。トップとしての意地を見せて体に染み込ませ、それなりに違和感を拭えた。
そんな騒ぎが連日続いてからの今である。
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