潜入開始

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式典に出席しているメレオンの重鎮…所謂大物と接触できないだろうかと辺りを見回し、静々と歩き回っていると、やけに声がかかるのが良い証拠だ。 『どこかでお会いしたことはありませんか』 などというありがちなセリフから、 『お美しい。まるで可憐な花のよう』 といった甘い口説き文句、 『このあと時間はないか?』 と大胆な誘いまで。その度はぁ、と生返事を返しするりするりと交わすも、せめてお名前だけでもと言ってくる者は多く、その度にナルタ国のレオナです、とフェイクの自己紹介をし続けた。 王が盛大に催した式典であり社交の場としての側面が強いとはいえ、何故こうも話しかけられるのかレオはいまいち理解できず辟易していた。中身は男なのによくもまぁやすやすと騙されてくれて、などと失笑すらしていた。 レオは魔女と幼き頃から暮らしてきたため、恐ろしく美しい女性を当たり前のように沢山見ている。 それ故女性の美醜や色気に対して無頓着であり、今の自分の女性的魅力がわからないのだ。 ……正直男の状態でもそれで良いのかと言わざるを得ない。どんなに美しい女性を前にしても惹かれない、反応しないなど恋愛できないではないか。 一先ずそれは置いておくとしても、とにかくナンパ男による邪魔が入って情報収集が出来ず疲労だけが溜まっていく。普段とは異なる体の使い方を常に心がけているだけでも相当の苦行である。 その上気障な男たち、中身は同性の相手に迫られ対応し続けるなんて心のどこかが色々と削れていく。任務を完遂することへのプライド、そしてレオほどの体力と精神力が無ければ続行は不可能であろう。 女の体は普段のレオの肉体よりも勿論ヤワであるため、そろそろ休憩しないとボロが出そうだ。 「きつ…」 郷での修行や鍛錬を完璧にこなし部下たちから畏怖されるほどの彼さえそのような弱音がこぼれた。 レオは給仕からグラスに入った水を受け取ると、テラスに出て夜風に当たることにした。
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