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「っ…!」
引き寄せられた先にあるのは、自身の今の体より一回り大きい身体だった。階段から落下しようとしたレオを何者かが引き上げ抱き止めたのだ。レオの体はすっぽりと後ろから抱き込まれ、その体つきで相手が男だと瞬時に悟った。
鼻腔を、品の良い香りが掠める。
「大丈夫ですか」
耳元で低いテノールの声が心地よく響いた。何故かぞくりと脳が震え、すぐに反応ができなかった。
「あ…」
首だけ回して見上げると、漆黒の深い瞳が目と鼻の先にあった。危うく顔をぶつけるのではないかと思えるほどすぐそばにあった。
落ち着け、とレオは自分を抑える。普段ならこれほど人と密着するなどあることではない。首筋を晒しているという危機感で職業柄思わず飛びのいてしまいそうになるのを留める。
これは、階段から落ちかけているところを助けられたのだ。普通のご令嬢ならこの状況で取るべきことは一つ。
「あ、りがとうございます…」
お礼、だろう。
戸惑いを露わにしながらも紡がれたそのか細い言葉に相手がふっと笑みを浮かべる。するりと自然な所作で抱き寄せていたレオの体を解放した。
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