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次に顔を上げても、男はその瞳をレオに向け続けていた。けれどどこか意味深な、含みのある表情をしていたので、目を瞬かせる。
男はややあって口を開いた。
「…月から降りてきた、天女かと思いましてね」
「………え、」
言葉の意味を全くもって理解することができず、さすがのレオでも惚けた声しか返すことができなかった。男は真面目な顔でそう言った後、自分の発言に対して、抑えきれないというようにふっと笑みを漏らした。レオは状況にもかかわらずぐっと唾を飲む。その笑みのなんと甘いことか。
「ふふ、失礼。自分でもなかなかに気障なことを申し上げたものだと思いまして。
…でも本当にそう見えたんです。テラスで物憂げに月をご覧になっている貴女が。」
「…」
そう言って、黒く深い瞳でじっと見つめられた。じわじわと皮膚の間を流れる血液が高ぶるような、妙な感覚に襲われる。
可笑しい。メレオン王国の人間は敵。正体を見破られること、怪しまれることに緊張感を覚えるのならまだしも、何か別の意味でひどく居心地が悪い。
そんなに見ないでくれと呟きたくなるほど。
「わ、たしは…」
思わず言葉を紡いだ。目が合わせられないまま。
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