無茶振り魔女

2/5
前へ
/31ページ
次へ
「お呼びですか、リンメイ様」 静かな部屋にて1人の男が跪き、豪奢な椅子に腰掛け足を組む女に問いかけた。部屋は闇が溶け込んだように暗く、それでいて不思議と周りのモノが浮かび上がるようにはっきりと見ることができる。 椅子に座すその女の姿も闇に溶け込みつつ、くっきりとその白い肌が、滑らかな髪一筋一筋が浮かび上がっていた。 女が口を開く。 「とうとう奴らの息の根をとめる手筈が整いそうよ、レン。」 漆黒の長き髪に、異様なまでの美しさを持つその女は微笑む。初めて彼女を見たものはこの人は一体いくつなのだろうと疑問に思うことだろう。10代半ばの瑞々しい少女にも見えれば、大人の色香が漂う齢にも見える。けれど年齢をいくら当てようとしても無駄だ。この女はゆうに150年を生きている。彼女は、気分次第でころころと容姿の若さが様変わりしてしまうのだ。人間の物差しで測れる生き物ではない。 何故なら彼女は魔女だから。魔女の郷の現頭領、リンメイ。 魔女に跪きこうべを垂れるレンという名前を持つ男は、スラリと背が高く均整のとれた体を持ち、魔女と違って年齢も大方予想がつく。20代前半の青年だろう。 その青年は焦茶の髪に翡翠色の瞳を持つ端正な顔をしていた。切れ長の涼しげな瞳は見る者をどきりとさせるように力があり、筋の通った鼻やすっきりとした輪郭には男らしさと少年らしさを混ぜたような色気をはらむ。魔女のように浮世離れした畏怖さえ抱かせる美しさではなかった。異性ならば近寄りたくなるような容姿。 それはひとえに彼が人間であることを示す。彼は魔女の(つるぎ)の長。魔女に育てられた人間のうちの1人にして、類稀なる戦闘力を持った男。 かつて王国軍と魔女の勢力が直接ぶつかった時も、彼は他の魔女の(つるぎ)の者たちを先導し、化け物じみたその戦闘力で勢力の差を全く感じさせない戦いぶりを見せた。王国からは魔女が育てた悪魔と称されるほどの強さを誇る武人だ。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加