潜入開始

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なぜ俺はこんなことをしているのだろう。 レオは遠い目をしながら豪奢なシャンデリアのもと、華やかな人々が言葉を交わし合う大広間に立っていた。塵一つ落ちていない磨き込まれた大理石に反射する光が眩しい。普段魔女の郷の暗くて静かな土地で暮らしている彼にとってはあまりこの煌びやかさは馴染みがないが、そんなことはどうでもいい。 ここはメレオン王国の王宮の大広間。 リンメイの命令通りレオは今こうして魔女の郷から出て、正体を隠しこの場に立っているのだった。 メレオン王国は今年で建国350年目らしく、栄えある節目の年として現国王が催した祭典。貴族たちは勿論、各界の有名な人間や学者、王族の傍系の遠い血族までこぞって呼び集め、華やかなパーティを開いたのだ。最初からリンメイはレオをこの式典に潜り込ませるつもりだったらしい。 国王からの正式な招待状がなければこの式典に参加することはできないらしいのだが、そこは魔女の十八番。リンメイがただの便箋に何かまじないをかけて渡してきた。本当に何の文章も刻印もない無地の便箋であったが、これを城のものに見せるとすんなり中に通された。他の人間たちには正式な招待状に見える都合の良い魔法をかけたのだろう。とてつもない数の上流階級の人々が招待されている為、顔見知りがいなくとも何ら問題はない。あとはこの場に溶け込み、様子を伺えばいい。 王宮の内部と守備を把握し、メレオンの重鎮たちから情報をもぎ取るというのがとりあえずの任務である。
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