潜入開始

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任務の内容には何も異論は無いのだ。魔女の(つるぎ)として過酷な鍛錬を積み、難解な任務をこなしてきた彼にとって、潜入など訳のないこと。 問題は今の彼の容姿だった。肩までゆるりと伸び、ウェーブがかった艶やかな焦げ茶色の髪、上向きのまつ毛に縁取られた大きな翡翠色の瞳、華奢な手足は白く、控えめな胸に細い腰の小柄な体は薄紫色の淡い色合いのドレスに包まれている。 どこからどう見ても、可憐なご令嬢だ。 こんなはずではない。レオはれっきとした逞しい男なのだ。なぜこんな姿になったのか思い出すだけでも理不尽な気持ちが込み上げる。全てはリンメイの気まぐれだ。任務にかこつけて自分の趣味を付け足しているのだ。 潜入の際のドレスを選ぶ時のことを思い出し、あの魔女ども、楽しそうにしやがってと柄にもなく悪態をつきたくなる。全員齢100歳はこえているくせに若い娘のようにきゃっきゃっと盛り上がりながら、レオにはこれを着せようよ、いいえこっちの方が可愛いわ、いやいや大胆に胸元を開けたやつにしましょう、などと本人そっちのけだった。 とにかくここまできたからにはせめて完璧に任務を全うしよう、それしかない。そう納得するしかなかった。 レオは人々の賑わいの中で気配を消し、この大広間の構造の把握につとめた。もしここで戦闘が起きたらどこを退路とし、どこを攻め込むか。王を襲撃するならどこが都合が良いか。護衛はどこに配置されているか、頭の中でシミュレートしていく。 と、その時レオの耳に気になる言葉が飛び込んできたので、仕草には表さず意識だけそちらに向けた。
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