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この世は不公平だ。
そう思ったのは、忘れもしない。十四年前――私が二十八歳の夏の日のこと。
失踪した姉のアパートのドアを開けると、同時にむんとした蒸し暑い空気が吹き出してきた。
そして後から襲ってきた腐臭に息を止める。真昼間から閉め切られたカーテンは、断熱するどころか沸騰した外気をそのまま室内に閉じ込めているように感じた。
口元を押さえながら、空き缶やお菓子の袋をかき分け進む。ワンルームの奥の部屋になんとかたどり着くと、薄暗い室内を見渡した。カーテンの隙間から差し込んだ日差しにちらちらと埃が舞っているのを見て、思わず小さく咳をする。
その部屋の隅を見て、はっとした。
そこにはゴミの山に囲まれた、四歳の真由子が倒れていた。
「なんだ、真由子はもうバイトか?」
日曜の朝、順一はお昼より少し前に起きてきた。
ふわと欠伸をし、ソファーに腰を掛ける。その後頭部が私の視界に入ってはいたが、私は掃除機を持ったままテレビから目を離せなくなっていた。順一はそんな私をしばらく見つめると、私の代わりにソファーの横に置いておいた籠の中の服を畳み始める。
テレビでは、ワイドショーが『母親の育児放棄、二歳女児死亡』のニュースを取り上げていた。
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