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こうして真由子にご飯を作るのも、これが最後。
しばらくは帰ってこないだろう。一抹の淋しさがよぎる。でも、これでいい。
子供は巣立っていくものだ。四歳の真由子を引き取ると決めたその日から、今日という日が来ることは分かっていた。
……真由子はこの家に来て、幸せだっただろうか。
ふと、包丁を動かす手を止める。
『好きな人ができたの』と書かれた手紙と、アパートの鍵を残して消えた姉。私はその行方を探そうとはしなかった。あの薄汚れたアパートの部屋を見て、真由子を姉の元に返そうという気は起きなかった。
だけれど結局、私は何もできなかったように思う。
母親として、真由子をうまく支えられなかった。ただ見ているだけ。頑張っている真由子をただ、見守っているだけ。
私のあの日の選択は、真由子にとって幸せなものだったのだろうか。今でも分からない。
「お母さーん」
晩ご飯の準備が終わったところで、お風呂場の方から声がした。
脱衣所の間仕切りカーテンは閉められたままだが、その向こうに真由子の気配がする。もう風呂から上がったらしい。私はカーテンの向こうに向かって声を掛けた。
「何? バスタオル忘れた?」
「ううん。ちょっと開けてー」
開けるわよー、と呼びかけつつカーテンを開ける。
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