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そこには、腰に手を当てて立つ真由子の姿があった。
バスタオルと、頭にはタオルターバンを巻いている。その格好で、服を宣伝するマネキンのようにゆっくりと一回転してみせた。
私は訳も分からずその様子を見つめる。しかし真由子がまた正面を向き、両腕を私の前に差し出した瞬間、その意味が分かった。
まだ湯気が出ている、つるりとした両腕。
その肌は綺麗で、かつて血みどろだった形跡などどこにも無い。
「最後にね、この十四年間の集大成を見てほしかったの! ……残念ながら、顔のニキビは治らなかったけど」
〝かわいそうに〟
十四年前。
真っ赤に腫れ上がった幼い少女の顔を見ては、周りの人々は口々にそう言った。
ダニやハウスダストが溜まった劣悪な環境で暮らしていた真由子は、重度の皮膚炎になっていた。顔、耳、首、手足の関節。常に掻きむしっていたその肌は赤く爛れ、会う人会う人の同情を誘った。
……何が、かわいそうよ。
私の子はかわいそうなんかじゃない。〝かわいい〟のよ。
こんなにかわいい子を捕まえて、かわいそう、かわいそうって……。他に言う言葉は無いの?
酷いわ……。
いつも、そう思っていた。そんな人々に笑顔を返す真由子を見ては、涙が出そうになった。一人で夜な夜な洗面台の鏡を見つめる真由子を見ては、悲しみに暮れた。
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