38℃に想いを込めて

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   ――母親はゲームに夢中で、十分な食事を与えず……。  ――部屋は汚物に塗れ……。  事件の概要が説明された後、長机に並んだコメンテーターたちが薄っぺらい見解を述べる。粗方議論が済み、若いタレントが最後にひと笑いを起こしたところで話題はあっさりと次のものへと移った。  私は気を取り直し、また掃除機をかけようとした。  だが、スイッチが押せない。気力が吸い取られてしまったかのように、力が入らない。 「……明枝」  順一が服を畳みながら、小さく声を掛けてくる。 〝かわいそうに〟  何度も真由子に浴びせられた言葉を思い出す。  その言葉を投げかけられる度に、真由子が愛想笑いをしていたのを知っている。心の中で泣いていたのを知っている。  ……何が、かわいそうよ。勝手なこと言わないで。  何度その言葉を飲み込んだか分からない。  真由子はいつも「私は大丈夫だから、何も言わないで」と言うから。私はどうすることもできなかった。  たまに友達のように懐っこく腕を組んでくる真由子を、ただ静かに見守ることしかできない。無力だと感じる。  順一がテレビを消したところで、私はようやく正気に戻った。 「……そう。今日も一日コンビニのレジ打ちなんだって」  掃除機を足元に転がし、順一の横に座る。彼の手が、宥めるようにポンポンと私の肩を叩いた。 「そうか。ここのところ毎日だなあ。あいつ、体壊すんじゃないのか」 「そうなの……。でも、春休みのうちに稼ぎたいって言ってきかなくて」  順一はううんと唸る。  
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