38℃に想いを込めて

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   真由子はこの春高校を卒業し、専門学校に通い始める。  ここからでは距離があるので、学校の近くに部屋を借りた。引越しまであと一週間。真由子は「学費と引越し代の足しに」と言ってひたすらに働いていた。 「……貯金、無いわけじゃないんだろ? 少しは休ませたら?」  その言葉に、ため息をつく。  洗濯物籠の中から真由子のブラウスを取った。服はもうあらかた段ボールにしまったと聞いていたが、まだ一着残っていたらしい。  レース編みの可愛らしい服だったが、何度も洗ったせいでよれかけているそれを見つめていると、切ない気持ちになった。 「私もそう言ったよ。でもあの子、頑ななの。こんな時のために切り詰めて貯めたお金なのにね。……もしかして節約し過ぎたせいで、すごく貧乏なんだって思われるのかな。それで気を遣われてるのかも……」  うちは決して裕福ではないが、真由子をバイト漬けにする程貧乏でもない。せっかくの高校最後の春休みなのだから、もう少し満喫してほしかった。でも真由子は笑顔で首を振る。いつも明るい真由子の、その裏に隠された気遣いを感じてしまう。  
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