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優しい湯気が肌を覆う。
温かな空気に包まれながら、私は今夜もお湯のチェックをしていた。
私のいつものルーティンワーク。真由子を一番風呂にさせるため、私は毎日夕方にお風呂の用意をし始める。
真由子には、お湯が一番綺麗なうちに入ってもらいたかった。その後に私か順一が入るので、真由子はいつも早めの、晩ご飯の前に入るのが恒例となった。
湯温計を見ると、少し熱めの40℃。また真由子が残業して遅くならなければ、帰ってきた頃にはいい湯加減になっているだろう。
脱衣所へ出て、ふと足元に一枚の紙が落ちているのに気付いた。
真由子がまだ四歳だった頃、私が書いたメモだ。忘れないように棚に置いていたのが何かの拍子に落ちたのだろう。懐かしいな、と思いながらそれを拾い、読み返す。
お湯は塩素を除去すること。
湯船に浸かるのは十五分までとすること。
石けんやシャンプーは無添加の物を買うこと。
お風呂のお湯は、38℃。
それが、我が家のお風呂の掟。いや、真由子のお風呂の掟。もう今は当たり前にしている数々のことが、当時はなかなか覚えられなかったことを思い出す。
そんなことを考えていると、ちょうどいいタイミングで玄関の方から音がした。真由子だろう。
しかし、いつもの慌ただしいドアの開け方ではなかった。
ゆっくりとドアが閉められ、ごそごそと静かに靴を脱ぐ。そしてふと落ちる静寂。私も思わず静かに様子を伺う。
それでも、玄関にいるその人物は、先程スーパーに醤油を買いに出かけた順一ではないと思った。
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