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その日以降も、真由子は働き続けた。
コンビニのシフトが無い日は短期のアルバイトを詰め込んでいるようだった。春休みに入ってからもう二週間、休み無く働いている。本当に大丈夫だろうか。そう思っても、夜は夜で真由子は自分の部屋を片付けたりしているものだからゆっくりと話をする時間も無かった。
「なんだ、真由子はまだバイトか」
順一が夕方の散歩から帰ってきて、淋しそうにぼやく。しかし私の作る料理を見て、今日は豪華だなあ、と少しだけ表情を明るくさせた。
真由子の引越しは明日だ。最後のご飯となる今夜は、真由子の好物を揃えていた。
「んー、多分そろそろ……あ、ほら。帰ってきた」
ガチャリと勢いよくドアが開けられる音。バタバタと走る音に、私たちは顔を見合わせる。真由子がこちらに顔を出すと、順一が先陣を切った。
「おかえり。真由子、テレビ見ようぜ。お前の好きなバラエティ始まるぞ」
「ただいま。……あー、やったあ、今日すき焼きだ! お腹空いたあ」
「おかえりなさい。ごめんね、まだちょっと時間かかるよ。お風呂沸いてるけど、先入る?」
お風呂入るー、と真由子は自分の部屋へと引っ込んでいった。順一が、恋人に振られた中学生のような顔をしている。余計なことを言ってしまったかしら、と心の中で順一に謝罪をしつつ、私はサラダ用のキャベツを刻んだ。
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