行き詰まり

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研次が意識を取り戻したのはやはり流し台の下だった。 細心の注意を払って先に感じる明るさの元へ出る。 光源は窓からのもので今が陽が射す時間であることを告げている。そして体の痛みはない。たが、それは生々しい記憶となって甦る。 研次はゴキブリとして早くも2回の死と再生を経験し、今の自分に安らかな最期などなく、生死を繰り返すことを確信した。 『・・またリセットか・・せっかく頑張ったってのになんだよ!何をやろうが殺されるに決まってるじゃないか!クソ!どうしろってんだ!?』 確かにほとんどの人間はゴキブリに別格の嫌悪感を抱くが、もし研次が他の、住宅に現れるようなものに転生したとしても結果には大差ないだろう。 蛾、蟻、蚊、蠅、カメムシ、蜂、蝉、正しくは昆虫ではないが蜘蛛も含めたとして虫の苦手な女性が喜んで受け入れるはずなどなく、駆除されるのは避けられない。 百歩譲ってそれが研次であると察しても真知子にとって彼は既に唾棄すべき者となっている。 そして現世に戻った現在、研次が自ら命を絶ってから半年が経過していることも彼は知らない。
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