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士季や張明もそうだが、韓栄に対する周囲の反応は芳しくない。
女性を臣下として迎え入れることはこの国では異例の事態であった。ましてや軍師とあらば彼女の指示で戦をしなければならない。いくら名声高い軍師の娘とはいえ、どこの馬の骨だかわからん人間の指示で動きたくはないのである。
「楊彪様はなぜあんな小娘の仕官を許したのか」
「言うほど賢そうではない」
「出しゃばり女」
あからさまに眉を顰める者、遠巻きに陰口を叩く者、大半はそのどちらかだった。彼女も彼女で謙虚に小さくしてればいいのに「女を武器に」など不遜な言葉を吐くものだから仕方ない。
しかし韓栄は気にする風もなく毅然とした足取りで宮中を歩く。兵舎のすぐ側に位置する、軍師が集う軍務室に着くと韓栄は淑やかに腰を折った。
「失礼します」
氷柱の様に冷え冷えとした視線が彼女一点に注がれる。大歓迎だ。
「本日よりこちらでお世話になります。韓栄と申します。宜しくお願い致します」
士季を始め一同は示し合わせたかの様に目を逸らした。韓栄は琥珀色の瞳で室を見回すが、誰も自分を見てくれない。
随分と嫌われたものだわ……。
「韓栄殿」
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