二章

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やがて董亮は意を決したように口を開いた。 「韓栄、聞きたいことがあるんだが」 「ええ、何かしら?」 「あの時、何故お前は自分を差し出そうとした?」 あの時……あぁ山賊に囲まれた時か、韓栄は合点する。 「それが、最良の策だと思ったのよ」 「何故?」 「人を庇いながら戦うのでは実力は充分にでないでしょう、私は男の手に渡った方が董亮は戦い易い。勝率はその分高くなるでしょう?」 「あのまま命を奪われる可能性だってあるんだぞ」 董亮の声が曇る。 「それなら、ただ私がそれまでだというだけのこと」 韓栄が悟ったように言う。その軽薄な物言いは董亮の怒髪天を突いた。 「もっと自分を大事にしろ!」 激昂する董亮に、韓栄は目を丸くする。彼は止まらない。 「お前は何の為に今崔に向かっているんだ、何故女にもかかわらず官人になったんだ! 李で大利を成す為だろう! もっと自分に執着しろ! 俺がお前について来た意味がまるでないじゃないか!」 董亮は堰を切ったように言葉を吐き出した。韓栄はただただ董亮の怒りの顔を見つめることしかできなかった。 「……ごめんなさい。貴方を見くびっていたつもりはなかったのだけれど」 董亮は韓栄の声に我に返る。 「すまない、俺も言い過ぎたな……」 「でも今日貴方たちの戦いを見た時は正直驚いたわ。あれだけの敵を赤子の手を捻るように一掃していたもの」 「俺ぐらいの能力の人間はそう珍しくない」 董亮は首を横に振って謙遜する。 「そうなの? でも私あの時、絶対助かると思ったわ」 「……本当か?」 董亮は目を見開き信じられないとでも言いたげな顔をする。 「ええ、貴方を死なせる策は……立てられないわ」 それは彼女の本心だった。あの時彼から確固たる強さを感じたのだ。 「……そこまで言ってもらえるなら、武人として冥利に尽きるな」 董亮は照れたような笑みを浮かべた。気恥ずかしそうだが、曇りがない穏やかな微笑みだった。 「…………」 韓栄の目が釘付けになる。 目が、離せない。まるで縫い止められてる様に。 初めて見る彼の笑顔は、彼女を捉えて、離さなかった。
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