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韓栄が火照った身体を自分で抱き締る様にして鎮めながら路を歩いていると、装飾品の露店が商売をしているのが見える。
「そこのお兄さん! 綺麗な恋人に一つどうです?」
愛想のよい店主が董亮に声をかける。
「こ、恋人ではない!」
董亮は少し頬を染めて慌てて否定する。反面韓栄は余裕を取り戻し涼しい顔で笑う。
「男女が二人でいるとそう見えるのでしょうね」
「そ、そうだな……」
董亮は平気そうな韓栄の様子を見て平静を取り繕うが、ふと色とりどりの飾りの中で右近色の糸でできた紐の髪飾りに目を留める。
「……」
董亮はその飾りを手に取りじっくりと眺める。そして一瞬不思議そうにしている韓栄の顔を見る。
「これですか? 小ぶりだけど綺麗でしょう」
視線に気付いた店主が期待を乗せた声で言うと董亮は無言で頷く。
「ご主人、これを」
「はい、かしこまりました」
店主は董亮から代金を受け取ると一瞬韓栄の方を見る。
「贈り物? ご家族の方かしら」
韓栄が問いかけると董亮は彼女の手に買ったばかりの髪飾りを乗せる。韓栄は手に乗った髪飾りを無言で見つめる。
「私に?」
董亮は頷く。
「着けてみないか」
韓栄はお礼を言うのも忘れ、ただ言う通りに元々使っていた髪飾りを付け替える。癖一つ無い真直ぐな髪にそれがあしらわれると董亮は満足そうに目を細める。
「似合うと思ったんだ。……予想通りだ」
「それは……良かったわ」
違う、「ありがとう」というつもりだったのに間違えた。韓栄は内心後悔する。董亮はわざと目線を逸らす彼女の反応を満足そうに見つめる。
「いつも澄ました韓栄軍師でも照れるのか。……中々可愛らしいじゃないか」
「え……?!」
その言葉に彼女は火がついたように赤面する。感情を悟られたのが恥ずかしかったのか、「可愛らしい」という言葉が嬉しかったのか、理屈で説明がつかない自分の心の状態に彼女は取り乱す。
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