二章

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「こ、こころにもないこと言うものじゃないわ!」 やっと出た言葉の余裕の無さに彼女の平常心はさらに遠のく。いつもならこの倍は反論を思いつく。 「……別に嘘は言ってない」 董亮は思わぬ彼女の狼狽した様子ににやつく。 「嘘よ!」 「まあ信じなくても俺は困らん」 ついに声を立てて笑いはじめる董亮に、彼女は子どものようにふて腐れた。 董亮といると、時々調子が狂うわ……! 「でも董亮は感情が出る女は嫌いなんでしょう」 話が少し大きくなっているが、揶揄われたのがよっぽど彼女にはおかんむりらしい。 「悪かった、からかい過ぎたな」 董亮は笑うのを止めると韓栄の頭をあやすように叩く。そんな動作も懐柔されているみたいで悔しくて韓栄は口を尖らせる。 「まさか董亮がそんなこと言うとは思わなかったわ」 その言葉に董亮も顎に手を当てて考えこむ。 「そういえば、他の人間にはあんまり言ったことがないな……」 「どういう意味かしら?」 より機嫌悪そうに語尾を吊り上げる彼女を見て董亮は慌てて言葉を続ける。 「そうだ、朱循に土産を買って帰ろう、果物がよいかな」 「誤魔化したわね?」 「さぁ行こう」 「……もう」 追求するのも大人気ないと感じたのか、韓栄は諦めたように彼について歩く。 感情的な女は苦手だが、彼女の表情が感情に合わせて動くのは、悪くないと思った。いつも取り澄ました顔が崩れるのは、小気味良い。俺しか知らないなら尚更気分がいい。 董亮はまだ紅い彼女の頬を見て一人微笑んだ。
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