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韓栄が仕官して十日ほどが経過した。直属の上司の婁舜とはそこそこ上手くやっているが、他の臣下とはやはり溶け込めていない。
その日の業務が終わった後、婁舜が帰ろうとした韓栄に声をかける。
「韓栄、仕事には慣れてきた?」
「はい、まだわからないことも多いですが」
「はは、そりゃいきなり周りの連中みたいに働くのは無理さ。でも要領はいいね。文書整理も正確だし、お父上譲りだ」
「……ありがとうございます」
韓栄は緩く微笑する。婁舜はその笑顔を見てぽつりと言った。
「笑わない訳じゃないんだけどねぇ」
「どういう意味です?」
韓栄は折角の笑顔を取り払う。
「いや、初めて会ったときは冷たい感じの愛想の少ない子かなと思ったからさ」
そういえば初めて会った日も表情がないからとからかわれた。韓栄は少し憤慨した様子で言った。
「私にも喜怒哀楽くらいはありますが」
「ごめんそんな怒んないでよ。でもさ、もっと積極的に感情を出しながら人と関わっていけば少し周りも変わっていくと思うよ」
「周りもとは……?」
「あんまり他の臣下と上手くいってないだろう?」
韓栄の表情が固まる。図星だ。
「だって仕事中以外いつも一人でいるんだもん、お兄さん心配になっちゃうよ」
婁舜は大げさに肩をすくめる。韓栄がむすりとして黙っていると、彼は明るい声で肩を叩いた。
「目標は友達を作ることだな!」
別にいなくても困らないのに。韓栄は内心苦々しく思う。彼女は元来少々人見知りで初対面の人間は牽制する癖があった。要領はよい方だが、友人を作るのは得意ではない。
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