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「貴女は、最近入った軍師殿だな、名は何ていうんだったか?」
運んでくれる割にはむっつりと歩いている彼に唐突に話しかけられ、韓栄は少し驚きながらも名乗る。
「韓栄と申します」
「そうか、俺は葵順将軍所属の副官董亮だ。近いうち貴女の采配で戦う事も有るのだろうか」
道に迷っても助けてくれない他の官人と違い比較的友好的に接してくれる。しかし愛想はない。
「どうした?」
「いえ、何でもございません」
「そうか」
董亮は黙々と資料を持って歩いていたが、ふいに韓栄に尋ねる。
「韓栄殿は歳はいくつなんだ?」
「二十一です」
急にどうしたのかしら? 韓栄は心の中で首を傾げる。
「意外に若いな。俺と二歳しか変わらないのか。敬語は使わなくて結構だ」
意外と言う董亮自身も落ち着いた雰囲気のせいか、歳の割に老成して見える。
「いえ、董亮殿は上司ですからそうはいきません」
韓栄は固辞する。しかし董亮は首を横に振った。
「どうせ貴女は近いうち出世するんだろう。優秀なんだろう?」
「……何故そう思うのです?」
韓栄は目を丸くして言った。
「この国で女性が官人として仕官を許された前例はない。周囲の反対意見は少なくなかった筈だ。楊彪様がそれでも貴女の士官を許したのは、韓蓋様への信頼と……何より貴女自身の才あってのことだろう。俺は期待している」
彼の顔を正面から見る。瞳の色に曇りが無い。嘘やおべっかを言ったのでは無い。余計な口が叩ける様な調子の良い人間でも無さそうだ。
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